食を通じていのちを考える「EARTH MART」パビリオン
【大阪万博】大阪・関西万博のパビリオン「EARTH MART(アース マート)」建物の屋根材の一部に西の湖のヨシが使われており、他のパビリオンにはない日本古来の建築文化を生かした外観に関心を集めている。
屋根材は、阿蘇の草原(熊本県阿蘇市)と富士山麓の御殿場のススキ、岡山県真庭市の蒜山(ひるぜん)高原の茅(かや)、淀川河川敷と西の湖(近江八幡市円山町)のヨシで、いずれも日本を代表するそれぞれの産地として知られている。運び込まれたススキ、茅、ヨシは、熟練の屋根職人によって産地ごとの屋根に葺き分けられ、それぞれの屋根が連なるよう立体的に造られている。
西の湖のヨシは10年以上、ヨシ刈り体験を通してヨシの再利用と自然環境保全活動に取り組んでいる菓子メーカー「たねや」が2023年の夏、交流のある有機農業に取り組む企業から「万博で全国から屋根材のヨシを探し求めている」との話しを聞き地元に相談。ヨシの保全活動に取り組むNOP法人まるよし代表の宮尾陽介氏らが協力し、地元地域の人々やヨシ事業者らも参加して複数回、刈り取り作業を行った。刈り取ったヨシは乾燥後、昨年11月に685束(2トントラック5台分)を建設現場に運び込み、パビリオンの屋根の一部として提供した。
屋根材に使われているススキ、茅、ヨシは、日本家屋を代表する屋根材であることに加え、刈取りから屋根材、家畜の餌、堆肥等に活用できるなど、自然循環の象徴としてとらえ、パビリオンのコンセプトである「いのちと食の循環」と重ね合わせている。自然植物がそのまま屋根材として使われているのは、このパビリオンだけで注目を集める存在となっている。
万博に提供するヨシ刈りを企画したたねやグループの大村啓子経営企画室長(44)は「ヨシの刈取り作業は地元の方々や県内外からの参加者とともに行ったものですが、パビリオンのヨシ屋根に使われたことをきっかけに、ヨシの活用がさらに広がっていくことに期待しています」と話している。
分かりやすいパビリオンの展示内容
このパビリオンは、万博協会の出展で、会場のほぼ中央にある。脚本家でもある小山薫堂氏がテーマ事業プロデューサーを担当した。「食を通じて、いのちを考える」をコンセプトに、現在社会の食のあり方や向き合い方を多角的に掘り下げ、めざすべき未来の新しい食のアイデアを提案するとともに食に対する「いただきます」の意味を見つめ直す内容となっている。
内部にはプロローグ、いのちのフロア、未来のフロア、エピローグの4つの展示ゾーンがある。プロローグでは、パビリオンのテーマである「いのちをつむぐ」を、人が食により生かされていることを俯瞰的(ふかんてき)にとらえ、「いのちと食の循環」を考える世界へ巨大スクリーンに映し出すアニメーションで誘う。
いのちのフロアでは、毎日の食といのちの密接な関係を具体例で示し、一人のいのちが様々な生き物から享受している食により保たれ、維持できている仕組みを分かりやすく解説している。
地球で最も食べられている魚のイワシや家畜のいのちの尊厳、世界第2位といわれる日本人が一生の間に食べる鶏卵約28000個を天井から立体的吊り下げ、その真下にその数量でできる大きさの目玉焼きを配置し、日本人の一生分の食量の一端を考える展示、ミツバチが約1か月の生涯のうち活動期間の約2週間で集めるティースプーン1杯の蜂蜜など食の価値などをはかる「いのちのはかり」、一人の日本人が食べる10年分の食べ物の体積をカートのかごに置き換えた「いのちのカート」、1週間分の家族の食糧の種類や量をレシート風に表した「世界のレシート」などが並べられ、来場者の関心を集めている。
「未来のフロア」では、海の環境を守るために寿司ネタを養殖魚に転換する魚の品種改良技術の進展、調理食品を凍結粉末にし、米の形に加工した「再生米」の未来型冷凍食品の提案、プロの料理人の味を記憶し、再現できるキッチン、子どもたちのアイデアが寄せられた「みんなが幸せになるお菓子」など、食の未来像が提案されている。
また、びわ湖畔の自然農法で育った「魚のゆりかご米」を石臼で挽いて作られたデザートなど「米の未来」調理や米のキャラメル、2050年に樽を開ける梅干し「万博漬け」の引き換えチケットの配布などもある。
高島市出身で2025年日本国際博覧会協会企画局の前川智哉係長(30)は「私もボランティアとして刈取り作業に参加したびわ湖のヨシが屋根材として使われていることをうれしく思います。パビリオンでは、家畜や野菜、植物などのほか、食材を運んでいただいている人、料理を作っていただいている人、生産者など食に関わる様々ないのちや人に『いただきます』の感謝の気持ちを表しています。展示を見ていただいた方々が、今夜の食事から食への感謝に心を寄せていただけたらうれしく思います」と話している。
パビリオンは、人が享受している生きものと食の文化や営みなど、いのちを支える身近な食について見つめ直し、未来の食の創造をみんなで学べるよう工夫された展示内容になっている。 (畑 多喜男)












