木工芸家 中川周士さん
◇大津
かつて生活必需品だった木の桶。今ではプラスチック製にとってかわられ、家庭で見かけることはない。比良山麓に工房を構える木工芸家、中川周士さん(45)=大津市=は、そんな桶に斬新なデザインを加え、海外から注目を浴びる。
優美な曲線、木の素材が持つ温かい質感。同工房の代表的な作品「ki-oke stool(木桶スツール)」=写真=は、桶を脚に活用した腰掛いす。中川さんは「欧米のライフスタイルにあわせ、グローバルなデザインを心掛けた」と話す。
中川さんの家は、祖父の代から京都市内で桶づくりを始め、父は人間国宝という職人の家系。美大卒業後、父に師事し、平成十五年に独立した。
しかし、桶の需要は右肩下がり。百貨店の催事では年配客が懐かしがるだけで売れず、料亭からの注文も先細りだった。転機は二年前。工芸作家の仲間に誘われ、インテリアに関するパリの国際的見本市「メゾン・エ・オブジェ」に出品してから。
会場にはエルメスをはじめ欧米の有名ブランドがずらり。多くのメーカーは創業以来、社会情勢の変化に応じて、伝統工芸の技術を生かしながら、顧客の視点でものづくりをし、同業他社との差別化を図るブランディングに磨きをかけてきた。刺激を受けた中川さんは「桶をベースに将来、別のものをつくりたい」と、一念発起した。
日本の伝統工芸への関心は、国内よりも欧米で高い。このため帰国後、デンマークのデザイナーから助言を受けながら、容器である桶の概念を打ち破り、桶を脚にした「ki-oke stool」などを制作した。
これがコレクターの間で話題になり、パリやミラノ、ニューヨークで展示会を開くようになった。そして海外の評価が高まった今、国内の注文も伸びている。
中川さんは「高い技術があれば売れるかというと、そうでもない。顧客の視点にたって、新しいデザインを加えるといったブランディングが大切。ただし、それができるのは、真剣にものづくりに取り組んできたから」と、未知の領域への挑戦は続く。(高山周治)








