日本結び文化学会理事 田中年子さん
◇東近江・蒲生
日本人の心を取り戻す正月。玄関にしめ縄を飾り、初詣でおみくじを引けば木の枝にくくり付ける。さり気ない風習また暮らしの中に、結びの文化が浸透している。実用性と装飾性を兼ね備えた結びの世界を一人でも多くの人に知ってもらおうと、国内外で活躍する日本結び文化学会理事の田中年子さん=東近江市川合町=を訪ねた。
一本のひもから生まれる造形美に田中さんが出会ったのは、昭和三十九年に入門した茶道石州(せきしゅう)流清水派・橋田正園さんの稽古場。橋田さんは、他者による毒物混入を防ぐため、仕服(しふく=茶入れ袋)のひもに凝らしたとされる花結びの一種“封印結び”の復元に取り組んでいた。
簡単にほどき結び直されては、鍵の役目を果たさない。身近な動植物を可憐に表現した封印結び完成図は残っていても、その過程を知る資料がない。未知なる領域に足を踏み入れた田中さん。橋田さんと十五年間、ひもの流れを追って結んではほどきを繰り返し、手順を図に起こしながら再現した花結びは百種類近くにのぼる。
さらに結び研究第一人者の故・額田巖さんとの出会いで、暮らしに根付いた結び文化を知った。「花結びを使って、今の生活に合うものが作りたい」と、花結び作家としての道を切り開いていく。
伝統的な結びを組み合わせたアクセサリー(ネックレス・イヤリング・ブローチ)や壁飾り、額飾りなど。和と洋の美が融合した新たな結びの世界を、田中さんは創り上げた。
自宅の教室に通って九年目の宇野小夜子さん=東近江市木村町=は、「日常生活で結びが目に付くようになった。時間の経つのも忘れて熱中してしまう」と語る。
入門一年目の古門則子さん=彦根市=は、「展示を見て『私にはできない』と思ったが、始めてみて色の豊かさに感動した。ごまかしがきかない分、できたときの喜びも大きい」と目を輝かせる。
現在、東京・静岡・京都・大阪・岐阜・滋賀で教室を開設しており、今年は二月十~十五日に近江八幡市の白雲館で展示会を催す。また、台湾や韓国の作家と二年ごとに開いている「国際結び文化展」の韓国開催も控えている。
「道具をそろえなくても手があれば始められ、どんなに複雑な結びをしても、ほどけば一本のひもに戻る」。田中さんを四十年以上もとりこにする結びの魅力。
生活を楽しもうとする遊び心と知恵から誕生した結びの文化が、現代人の心に宿り始めている。








