滋賀報知新春座談会
【東近江】 全国的に医師不足などで地域医療が厳しいなか、東近江市は、地域の医療機関が得意とする分野で専門性に特化して、互いに連携することで、質の高い医療を提供する「地域で創る総合病院」の実現を目指している。そこで、滋賀報知新聞社はトップリーダーによる新春座談会を開催し、構想への思いや期待を語り合ってもらった。文中敬称略。
■がん治療拠点、本格稼働
―今年8月にがん治療拠点、東近江市蒲生医療センターの新病棟が完成する。
小椋 東近江医療圏では、がん治療の完結率が56%にとどまっていることが課題である。特に乳がん患者のほとんどが県南部や県外で治療を受けている。
市は、蒲生医療センターを増築し、今夏、診療所から病院へと移行する。院長に乳がん治療で卓越した実績をもつ諏訪先生をお迎えし、最先端の検査から手術、治療を行う。
これによりがん治療の完結率が向上し、市民が身近に高度な医療を受けられることで、健康寿命の延伸につながると期待している。
―蒲生医療センターを含む東近江市立2病院を指定管理で運営するのは、医療法人社団「昴会」。東近江地域で病院を運営するようになった背景は。
相馬 過酷な大学紛争の真っただ中、研究生活に見切りをつけ、自分の将来のため原点である一医師としての人生を踏み出し始めた。 さらに日本の医療の実態を知ったのは、京都府医師会の理事として救急と病院(公立と私立)の担当となった時で、病院内外の問題点をよく勉強させてもらった。
これらの経験により、公立病院と私立病院の悪いところを切り捨て、良いところを合わせれば、私の思う理想の病院をつくれると考え、実行したのが日野中央病院(現・日野記念病院)だった。
当時の日野町長から「雪で病院に行けず、盲腸で若者が死ぬという状況を改善したい」と熱心に説得され、1985年に日野中央病院を開業した。また、滋賀県出身で医師だった祖父の導きもあったかもしれない。
現在、東近江市では能登川・蒲生の公立2病院の指定管理も担い、優秀な医師が集まる状況が実現している。
―諏訪院長は、どのような思いを抱いて蒲生医療センター院長に着任されたのか。
諏訪 総合病院の長年の経験から、がん診療は、多くの診療科と職種が垣根を超えて力を合わせ、治療とケアで患者に寄り添う「チーム医療」が大切と感じている。
蒲生医療センターでは、今夏から大都市の総合病院に匹敵する乳がん治療が提供できる。地域の医療機関と連携し、地元で安心して治療を受けられるようチーム一丸となってがんばりたい。
冨田 がん治療の病院が身近にあることは、市民にとって非常にありがたい。以前は、PET―CT検査などで遠方へ行く必要があり不便だった。治療が地域で完結できることで、市民の暮らしの質が高まる。
―地域医療は、人材育成も不可欠だ。滋賀学園は2024年度に県内で唯一の看護科・専攻科を開設したが。
森 東近江地域には看護師を養成する学校がなく、地元で活躍する人材育成が強く求められていた。
滋賀学園高校では、高校1年生から最短5年(看護科3年、専攻科2年)で看護師の資格が取得でき、経済的負担の軽減、高校時代から看護の基礎を学べる点が特徴だ。
■医療連携と人材育成で持続可能な地域医療
―2005・06年に合併した東近江市は、国公立3病院の維持存続が大きな課題だった。
冨田 当時の市内国公立3病院は、短期間で医師不足に陥っていた。3病院の常勤医師の総数は2005年の57人から5年間で24人まで減った。医師が減ることで3病院の外来・入院患者の減少はもとより、救急車の受け入れも半減してしまうなど、地域医療は崩壊寸前となっていた。
市民の間では、「地域の病院はどうなるのか」などと、不安な話ばかりだった。
―小椋市長は2013年の就任当初から病院経営の立て直しに着手し、22年度には地域医療連携推進法人「東近江メディカルケアネットワーク」【注】を旗振り役となって設立させた。
小椋 まず前提として、自治体が病院経営をする時代は終わっているという認識があった。医療が専門高度化して市職員ではついていけない。それで、民間の経営ノウハウを取り入れるよう指定管理者制度を導入した。
その結果、能登川病院は指定管理前4人だった常勤医師が、現在は22人まで増え、診療科も増えた。眼科アイセンターや人工関節・脊椎センターなどの専門医療を開設して、多くの患者さんにお越しいただいている。蒲生医療センターは現在の地域医療を維持しつつ、がんの診療機能をさらに強化する。
東近江総合医療センターは、国立病院機構の病院として全国で初めて、地域医療連携推進法人に加入してもらった。滋賀医大の「教育研究拠点」に位置づけられ、医師数は最も少なかった12人(2010年)から52人まで回復した。
また、東近江メディカルケアネットワークは、医師会と医療法人、学校法人、自治体で連携して「地域で創る総合病院」をつくり、それぞれ特徴のあるレベルの高い診療科目で連携する。
各病院の特徴をみると、東近江総合医療センターは、市の中核病院として様々な診療に対応、特に呼吸器や消化器、感染症にも強く、湖東記念病院は脳や心臓血管、日野記念病院は消化器や脊椎で強い。眼科といえば能登川病院で、白内障手術は短時間で日帰り手術ができる。東近江敬愛病院や青葉病院にも参画していただいている。
東近江市長 小椋 最高の医療、地域で完結へ
滋賀報知新聞社社長 冨田 情報発信で市民に安心届ける
市民が、どの病院の、どの先生が一番フィットするだろうと、自分にとって最高の医療を選べるのは大きい。日頃はかかりつけ医に診てもらって、悪いところがあれば、すぐに検査予約を専門性のある病院につないでもらえるイメージだ。
人材育成も重要で、滋賀学園高やびわこリハビリテーション専門職大も加わり、不足する医療従事者を地域で育ててもらっている。
【注】地域医療連携推進法人・東近江メディカルケアネットワーク=東近江圏域の地域医療の体制強化を目的に、医療法改正によりできた法人制度を活用して2022年に設立。県内3例目。医療機関と自治体、医師会、学校法人で構成。医療機関の垣根を超え、機能分担や業務連携、共同研修、医薬材料などの共同購入、病床機能の調整などを担う。
―昴会は、東近江地域の医療の一端を担う機関として、今後どのように医療連携に関わるのか。また、理想とする地域医療にどの程度近づいたのか。
相馬 指定管理で受ける能登川病院と蒲生医療センター、そして昴会の日野記念病院、湖東記念病院は同じ立場で運営する。4病院は地域医療連携推進法人(東近江メディカルケアネットワーク)にも入っているので、各病院が専門性を生かし、互いの経営が連携を通じて向上するように取り組む。
病院経営の哲学は、収益を上げ、それを市民への高度医療提供と医療従事者の待遇改善への還元と考えている。市立病院の指定管理は、政策医療を担う側面があるため、その分野で赤字は当然だが、市と協力し合うことで赤字幅を抑えられている。
「理想の地域医療」は山で例えると、10合目の頂上が見えてきている。ただし、医療は常に進化をし続けるため、常に最先端を追いかける必要がある。
―蒲生医療センターで受けられる乳がん治療の内容は。
諏訪 乳がん治療の3本柱である、手術、薬物療法、放射線療法を全て実施する。
まず手術は、高画質画像モニターなどの最新設備を備えた手術室を新設する。手術で必要な病理検査では、遠隔診断による病理診断連携を京都大学と進めている。さらに乳がん手術は、乳房の形をきれいに整える整容性も大切なので、形成外科医と合同で乳房再建手術を予定している。
医療法人社団昴会理事長 相馬 官民連携で「理想の病院づくり」
蒲生医療センター院長 諏訪 「チーム医療」で高度ながん治療
学校法人滋賀学園理事長 森 地域で活躍できる看護師育成
薬物療法は、診療ガイドラインに沿った標準治療を提供する。新設の外来化学療法室では、専門の看護師と薬剤師を配置し、快適で安心感のあるゆったりとした環境で治療と副作用管理をする。高度な専門性を要する副作用の場合、昴会を含めた他の医療機関や滋賀医大と連携して、地域の総合力で対応する。
大都市の総合病院に匹敵
―紹介状なしでも受診できるのか。
諏訪 紹介状なし・予約なしで直接受診できる。受診ハードルの低い点は、大都市の総合病院よりも優れた点だと思う。
乳がんは、セルフチェックが大切で早期発見ができれば治る確率が高く、常にセルフチェックを意識してほしい。
―滋賀学園の看護師育成の取り組みと医療の連携は。
森 高校看護科3年間で基礎を学び、次の看護専攻科へは試験なしで進学できる。
専攻科2年間では、専門的な学びを深めつつ、看護師としての倫理観や職業意識を身に付け、国家試験合格をめざす。
看護実習は、医療機関など55カ所と連携して実施している。地域医療連携推進法人加盟の病院には、高校1年生の見学段階から受け入れてもらっている。
■今後の地域医療
―「地域で創る総合病院」への展望は。
相馬 昴会の2病院、指定管理者として運営する2病院がネットワークでつながっており、患者情報を共有している。
また、東近江総合医療センターと連携し、東近江市を中心に大学病院並みの地域医療完結型の病院群をつくりたい。そして、今年8月に完成する東近江市蒲生医療センターが全てのがんの放射線治療、薬物治療が可能な病院を目指すこととなる。
さらに、技術の卓越した医師が、若い医師の指導に当たり、将来専門医へと成長してもらい、それらが市民にとって最善の治療につながるのが私の理想。その実現に近づいているのが最大の喜びです。
諏訪 若い医療従事者の育成に向け、「地域で創る総合病院」の魅力を発信し、研修医や看護学生の見学・実習を積極的に受け入れる。さらにチーム医療の大切さを伝え、働きやすい環境をつくりたい。
森 生徒たちは、東近江における地域医療の考え方を深く理解し、温かい人間性を持った看護師として成長すると確信している。
冨田 地域メディアとして、わがまちの医療がここまで進んでいる現実を市民に伝え、認知向上に努め、安心感を届けたい。
小椋 市民が健康に安心して生活することが最も重要であり、行政は最大限に努力すべき。「万が一の時はこの病院にかかればいい」と知っていただくのが安全安心の材料になる。
医療連携を深めることで、市民に安心してもらえる体制構築に努めるとともに東近江のすばらしい医療水準を積極的に発信したい。
(司会・文責・高山周治、写真・古澤和也、記録・矢尻佳澄)
厚生労働大臣
衆議院議員 うえの賢一郎
東近江地域では、小椋・東近江市長を先頭に、昴会様や滋賀学園様、近隣市町の協力により「地域で創る総合病院」の取組みが進んでおります。これは既存の医療資源を有効に活用し、地域全体で、良質な医療を確保しようとするものです。これからの時代にふさわしい、住民の命と健康を守る取組みであり、私も強く共感しております。
今後、高齢化の進展や人口減少により、地域医療のあり方は大きく変わってきます。先般改正された新しい医療法では、入院・外来・在宅医療、介護の連携を含む地域全体の医療提供体制を市町も積極的に関わり、お示し頂くこととなりますが、まさに、東近江地域の取組みはその先駆けとなるものです。
能登川病院の改革や蒲生医療センターの設置など、これまでの様々な改革効果もあり、東近江市の医療水準は大きく向上してきました。今後とも、よりよい医療・介護体制の充実に向け、一丸となって是非頑張って頂きたいと考えます。私も微力ですが、全力で応援して参ります。






