『モーツァルト 父の夢、子の夢』(11)茫然自失のレオポルト
モーツァルトの母親の死をレオポルトに伝える役を引き受けたブリンガー神父は、レオポルトに会うために射的会に行ったが、レオポルトはその場面を次のように手紙にしたためた。「父さんはひとことも語らずに彼に手紙を読ませると、彼は見事に素知らぬ顔で、これをどう思うかと父さんに尋ねてきた。父さんは、私の愛する妻はもう死んでいると確信している、と彼に答えた。彼は、自分も本当のところはほぼそう察していると言い、それから父さんに慰めの言葉をかけ、真の友として、父さんがすでに自分に言い聞かせていたまさにそのことをすべて語ってくれた。父さんは落ち着きを取り戻し、神の思し召しに身を委ね続けるように努め、射的会を終え、そして皆は悲しげに去って行った。ブリンガー氏は父さんのそばに残って、それからそっと父さんに尋ねた。手紙に綴られた病状でもまだ望みがあるのかどうか、どう思っているのかと。父さんは彼に答えた。母さんが亡くなったのはほんのいまのことではなくて、お前の手紙が書かれたその日にはもう死んでいたのであろうと思うのだが、と。そして、父さんが神の思し召しに身を委ねていること、さらに父さんには二人の子供がいて、ただこの二人の子どものためにのみ生きているように、望むらくは子どもたちもそのように父さんを愛してくれるであろうと信じるのも当然であろうし、そう信じきっているから、お前には戒めすら書いたし、ことの結果についての心配ごとなどもお前に宛てて書いた、とも彼に言った。するとこれに応えて彼は、そうです、お亡くなりになっています、と父さんにいったのだ。そしてこの瞬間に、この突然の不慮の出来事のために父さんの目の前を覆い続け、父さんが先を見るのを妨げていたヴェールが、父さんの顔から落ちたのだ。そうでなければ、お前の手紙を読んですぐに父さんは、お前が秘密裏にブリンガー氏に本当のことを書いたのだろう、とピンときたであろうから。しかし、お前の手紙のために父さんの頭は本当にぼうっとなってしまい・・・
父さんは最初の瞬間、あまりに打ちひしがれていたので、何かをよく考えることができなかった。いまはどう書けばよいものかわからない。」妻の死が、日ごろから冷静沈着を心がけているレオポルトに、激しい動揺を与えたことが読み取れる。落ち着きを取り戻したレオポルトは、息子の旅の継続は難しいだろうと考え始めるのである。
モーツァルト・バー「キール」
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