「ステージパパ、レオポルトの本音」 大喧嘩の発端(32)
――息子さんが大司教と大喧嘩したのは、どんな経緯があってのことなんですか。
レオポルト 当時、大司教は、お父様の具合が悪いというので、お見舞いのためウィーンに滞在なさっていたのですが、当地の貴顕の方々とのお付き合いの関係もあり、ぜひとも音楽会が必要になりました。そのためには、どうしても息子が中心におらねばならず、約束の期限を過ぎてもミュンヘンに滞在しているヴォルフガングを、至急にウィーンに来るよう呼びつけたのです。
――息子さんは反抗してウィーンに行かなかったのですか。
レオポルト いえ、ウィーンは自分の才能を発揮できる場だと考えていたので、飛んでいきましたよ。ただ、息子の気に入らなかったのは、大司教から他の召使たちと同じように扱われることだったのです。席次の決まった下僕たちとの食事は、ザルツブルクにいる時とちっとも変わらないと。
――でも、大司教に仕えている身分ですから、当然仕方ないことなんじゃないですか。
レオポルト 常識で考えればそうですが、大司教のことが気に入らないヴォルフガングにすると、その常識は、彼の常識ではないのです。でも、私はもしやこういうことが起こるのではないかと大変危惧しておりました。マンハイム・パリの傷心の旅から帰って、退屈な日常がもう2年以上続いており、故郷に留まることを強いられる息子の我慢も、限界に近づいていたことは、息子の言動から容易に推測されました。そこへ、「ウィーンに来い」との命令。退屈な世界に戻るのではなく、刺激に満ちた場所に行けるわけです。心躍る気持ちになるのも仕方のないことかもしれません。それに、悪いことが重なりまして。
――悪いこと?
レオポルト ええ、ウィーンでも息子の生活を支援してくれる奴らが、現れたのです。
――え?息子さんの生活を支援してくれる人が現れたのは、お父さんにとって有難くないことだったのですか。
レオポルト 有難いどころか、息子の運命を狂わす最悪の連中ですよ。あいつらと出会わなければ、息子は、間違いなく故郷に帰って来たのです。あいつらが、余計な知恵を息子に授けたばかりに、事態が予想外の展開になってしまい・・・
――一体全体、あいつらって、誰なんですか。
レオポルト またぞろ現れたウェーバー家の連中ですよ!知っているでしょ、あいつらを私が蛇蝎のごとく嫌っているのを!
モーツァルト・バー「キール」
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