関西人になったモーツァルト サリエーリを桟敷まで案内したんやけど(52)
モーツァルトのコンスタンツェへの最後の手紙は、『魔笛』の評判のよさを自慢する文面で始まる。「6時に、サリエーリとカヴァリエリを馬車で迎えにやって、桟敷に案内したんやけど、…二人がどんなに愛想よかったか、信じられへんほどやで。音楽だけやないで、台本から何から何まで、気に入ったみたい。二人とも『これは一番えらい王侯貴族の前で演じられる、最大の祝祭に相応しいオペラだ』とか、『こんな綺麗な出し物は見たことがないので、今後もきっと見に来る』とか、言ってたわ。…招待されたことに、感謝しきりで」因縁のサリエーリとの敵対関係は、びっくりするくらい良好で、映画『アマデウス』の中に登場する二人の対立はない。オペラは大入りで、大成功と、仕事への自信は揺るぎないが、それより息子カールのことが気がかりなようで、話題は、息子の教育の問題へと移る。「カールはオペラに連れて行ってやったんで、めっちゃ喜んでたわ。元気は元気でえーんやけど、健康面から考えると、今の学校よりえーとこはまあ、ないわな。それはよーわかってる。そやけど、他の面では、どーもよーないなあ。一人前の百姓にでもするんやったら、それでえーけど、ただそれだけの話。…ともかく、今までより、よーもわるーもなってへん。相変わらず、行儀悪いし、おしゃべりで、前よりも勉強せーへん。あいつのやることゆーたら、朝5時間、昼ご飯のあと5時間、ただ庭をぶらぶらするだけや」息子の学習環境のことで頭を悩ませているのは、今の親とまったく変わりない。そして、手紙の最後に、いつものように「君から、手紙二日もくれへんのは、許せんなー」と手紙を締めくくった。まだまだ生きるつもりだから、もちろん劇的な終わり方ではない。だが、この手紙からほぼ一月半で、モーツァルトはこの世に別れを告げることになるのである。
(次回から、新シリーズ『ステージパパ、レオポルトの本音』をお送りします。モーツァルトの父親の子育てとその挫折を、インタビュー形式で、父親自身の口で語っていただきます。乞うご期待。)






