参議院議員 林 久美子
夫婦以外の第三者が不妊治療に関わる生殖補助医療。今の日本には、生殖補助医療に関する法律はありません。一方で、夫以外の第三者の精子提供「AID」や、妻以外の女性の体内に受精卵を着床させ出産してもらう「代理出産」は実際に行われており、法律のない中で実態だけが存在しています。特に、AIDによって生まれた子どもはすでに一万数千人に上ると言われています。こうした生殖補助医療について、今、国会では法案化の動きが進んでいます。
先日、AIDによって生まれた三五歳の女性からお話を伺う機会がありました。不妊治療に悩んでいた母親は、病院で治療を受け、AIDで彼女を妊娠。医師の勧めによってこの事実は隠されてきました。しかし父親が遺伝性の病気になったことをきっかけに、彼女は二三歳の時に、自分が第三者の精子提供によって生まれたことを母親から聞かされたと言います。
「母親の嘘の上に、私の人生が成り立っていると感じ、愕然とした」。
彼女の表情が曇ります。親への信頼感が崩れ、アイデンティティが崩壊し、自分自身を肯定出来ない状態になり、精子(モノ)と母親から生まれているという違和感が襲い、今も続く苦悩。AIDによって生まれたという事実が彼女を苦しめ、苦しんでいる彼女の様子を見て母親も苦しむ、母親が苦しんでいる様子を見てまた彼女が傷つく…。今でも母親のことは大好きで、事実を知ってから十二年も経つのに、こうした苦しみの連鎖から抜け出せない…。さらには誰が精子提供者かもわからないため、近親婚になる可能性があることや、医療機関を受診する際に自分の体質を説明出来ないそうです。
「私はAIDに反対、無くしてほしいと思っています。この技術は、一体誰を幸せにする技術なのですか――」。
生まれてきたことをこんなにも辛辣に否定的に捉えている彼女の一言に、言葉を失いました。
私は積極的にAIDを勧めるつもりは毛頭ありません。彼女の苦しみが深いことも理解します。一方で、子どもを持ちたいと願う人々の苦しみにも寄り添いたいと思います。二〇〇六年、私が民主党「次の内閣」子ども・男女共同参画担当大臣だった時に、生殖補助医療に関する論点整理(中間報告)をまとめました。この中で、法的問題や親子関係、提供者の法的地位、必要とされる法規制などについて整理し、実際に行われている生殖補助医療で安全性を確保すること、生まれた子どもの法的地位と育成を保障することを主眼に、規制を行ない、部分的に実施することを可能にすることとしました。もう一度、当事者の声を大切にしながら、生殖補助医療に関する法案と向き合っていきたいと思います。
スウェーデンの心理学者インガ・グスタフソン氏の言葉。
「社会は子どもを欲しがっている人たちすべてに子どもを与える義務は負っていません。けれど逆に子どもを見守る義務は負っているのです――」。






