県流域治水条例案
◇全県
二百年に一度の大雨が降った場合、三メートル以上の浸水が見込まれる「浸水危険区域」で建築規制と罰則をかける「県流域治水条例」案。危険区域に想定される地域では反発の声が相次ぎ、七日には近江八幡市と長浜市、竜王町の関係二十自治会などが、嘉田知事に抗議文を叩きつけた。そこで十一日の県議会採決を前に、抗議文を提出した近江八幡市・水茎干拓地や、長浜市に次いで多くの建築規制家屋が見込まれる甲賀市を迫った。【高山周治】
戦争末期から戦後にかけて食糧増産の国策で内湖を陸地化した水茎干拓地は、琵琶湖水位より三メートル低い。このため水はけが悪く、ポンプで常に排水しなければならない。
県外から入植した二村實・水茎町自治会長(78)は、「国策事業だったが、戦後の混乱で国による整備は不完全だった。このため入植者は力を合わせて、懸命に改良した」と、当時の辛苦を振り返る。
住民で協力して土管を埋設して、暗渠(あんきょ)排水を整備した。湖底に溜まった木の葉が腐食してできる泥炭層に、耕運機が沈んだこともあった。
しかし、過酷な農業環境や伊勢湾台風(昭和三十四年)の被害で干拓地を去る人が増え、当初の約四十戸が約二十戸に半減した。現在も排水事業の賦課金が大きな負担になっている。
県条例案については、県から説明は一切ない。「浸水危険区域」では、住宅などを新築、増改築する場合は宅地のかさ上げが義務付けられている。
これについて二村さんは、「苦労してやっとここまできた人たちに、なんの事前の知らせもなく、さらなる負担を一方的に求めるのは納得できない」と、高圧的な県の姿勢に怒りを覚えるという。
信楽 建築規制188戸
「治水の理念から外れた条例」
甲賀市の旧信楽町では、建築規制がかかる家屋が百八十八戸に上る。甲賀圏域最大の流域面積をもつ大戸川や支流の信楽川が流れ、氾濫原因となる花こう岩質の土砂を上流から運び、川底に堆積させる。
台風18号が来襲した先月十六日。信楽町では二百四十八戸に床上や床下の浸水被害が出た。被害が集中した中心地区・長野では、信楽川が午前五時頃に一気にあふれた。
旧信楽町長と甲賀市副市長を務めた今井恵之助さん(74)は外の異変に気づき、自宅近くの親族経営の茶販売店へ駆けつけた。
店内は太ももまで水に漬かっていた。備品を高所に上げようとしたが、間に合わなかった。畳はおろか、工場のモーター、バーナーも故障して取り替えざるをえなかった。
台風のあとの川底は、大人の背丈ほど堆積していた土砂のほとんどが押し流されていた。四百メートル上流では、堆積土砂で流れが強まり、水圧で土手が崩壊していた。
今井さんは「町長時代からしゅんせつの促進を県へ要望しているが、財政難や残土処分場の確保が難しいとの理由で、いたずらに対応が遅れているばかり」と嘆く。
条例案が関係自治会へ知らされない中、嘉田知事寄りの中嶋武嗣・甲賀市長は表立った発言を控えている。市議会の一部からは「人命を守るため必要」と、賛同する声もある。
しかし、今井さんは「行政本来の仕事である治水を忘れてもらっては困る。今の条例は『水から、いかに逃げるか』であって、水を治める『治水』の理念から外れている」と批判した。








