絵本制作、「井真成」主人公に
◇大津
奈良の都で遷都千三百年祭が盛り上がる中、絵本「遣唐使物語 まなり」(本体価格千八百円)が二十日、新樹社より出版された。大津市在住で万葉ロマンをライフワークにする日本画家、鈴木靖将さん(66)が絵を担当した。主人公は志半ばで唐で命を落とした日本人留学生「井真成(いの・まなり)」。無名だった彼の名は二〇〇四年秋、中国・西安で墓誌が発見されたことで脚光を浴びた。
遣唐使は、唐の優れた政治・文化を日本へ持ち帰るため、六三〇年から八三八年までの二百年間で十五回にわたり、四十隻派遣された。しかし、造船・航海の技術が未熟だった当時、このうち十二隻は沈没するなどして、人々から「死の船」と恐れられた。
遣唐使で名前が残っているのは、吉備真備など位の高い人のみ。しかし、鈴木さんは「遣唐使を支えたのは、井真成ら名もなき大勢の人々だった。彼らこそ闇に埋もれた本当の星だ」と思いをはせる。
鈴木さんには、忘れえぬ美しい風景がある。三十数年前、スケッチ旅行で訪れた遣唐使の国内最後の寄港地、五島列島の福江島(長崎県五島市)だ。遣唐使も眺めた東シナ海は「海水が底まで透き通っていて、まるで船が空に浮かんでいるように見えた」という。
本書では様々な色彩の海を描いた。なかでも真成が母の見送りを受ける、難波(大阪市)の海は思い入れが深い。モチーフは遣唐使随員の母がつくった万葉歌、「旅人の宿りせむ野に霜降らば わが子羽ぐくめ天(あめ)の鶴群(たずむら)」(注解)である。
ここに描かれた海は、陰影のある波から淡い藍色へと微妙に変化する。海上には満ち欠けを繰り返す月が浮かび、それに寄り添う鶴の群れが母の思いと重なる。
唐へ渡った真成は染織技術を修得し、玄宗皇帝に仕えるようになるが、やがて宮廷の綿畑で倒れ、綿を日本に持ち帰る夢叶わず亡くなる。しかし、その魂は白い蝶となって、故郷へ舞い戻るストーリーとなっている。
鈴木さんは「読者には国の基礎をつくった名もなき人々の壮大なドラマを知ってもらいたい」と話し、またこの十月、日本・中国・韓国の芸術家も招かれる韓国の百済文化祭で原画展を開く予定で、「日本との絆を再認識してほしい」としている。
本書は県内書店で販売されている。問い合わせは新樹社(03-6380-3491)へ。
【注解】「旅する人が野宿する野に、霜がおりたら、私の息子をその羽で守ってあげて、空飛ぶ鶴よ」






