組織作りや事業継承について 能作克治会長、能作千春社長が語る
【東近江】 湖東信用金庫が開く経済講演会がこのほど、同金庫本店(東近江市青葉町)で行われた。「つなぐ100年企業 5代目社長の葛藤と挑戦」をテーマに、講師には錫(すず)鋳造を中心に事業展開を行う鋳物メーカー、株式会社能作(富山県高岡市)の会長、能作克治氏と社長の能作千春氏が立ち、独自の組織づくりや経営方針などが語られた。
鋳物のまちで知られる高岡市で、仏具を製造する工場として1916年に創業した能作。現会長の能作克治氏が生み出した錫製のテーブルウェアやインテリア用品など自社開発の製品が注目を集め、いまでは日本国内のみならず海外にも進出。長女の能作千春氏が5代目として社長に就任後も、ブライダル事業など錫製品を中心とした幅広い新規事業が成功を収め、その経営手腕は世界の事業経営者からも関心を集めている。
講演会では、克治会長から製品開発への向き合い方などが伝えられた。事業拡大への転換期の一つとなった同社の主力製品、錫製品の開発の歩みが語られ、「鋳物のまち高岡市の職人たちへ恩返しの気持ちで製品開発に挑んだ。守る伝統から攻める伝統へ。とにかくやりたいことがあればチャレンジし続けた」と、伝統を生かしつつも顧客ニーズや新しい提案に徹した当時の心境を振り返った。
また、「営業をしない」「競争しない」「目標を持たない」を掲げた同社独自の経営スタイルも話し、「ノルマを設けず仕事を楽しむこと、続け諦めないことが一番大事」と伝え、まちの発展を兼ねた地域社会への貢献や、地域一体となった観光産業への取り組みの大切さを訴えた。
「小さな頃から父の楽しそうに仕事をする姿はいまも覚えている」と振り返る千春社長は、娘として会社を継ぐ意思はなかったが、父の姿を見て「自身も何か熱中できることは」と、大学卒業後は通販誌の編集者として奔走。仕事を通じて父、克治氏が生んだ錫製品に改めて出会ったことから同社の事業に興味を持ち始め、2011年に能作に入社した。
2児の母親として仕事にまい進するなか、新社屋の事業を担うことに。自身の経験を生かし、ショップやカフェの併設に加え、鋳物の制作体験や無料の工場見学などを新社屋に設けた。錫婚式などを展開したブライダル事業も注目を集め、女性層も増えて最近では年間13万人の来場者が足を運ぶ人気の観光施設に。その矢先の19年、克治氏が大病で倒れたのをきっかけに、千春氏の意識が変わったという。
「カリスマ経営者だった父の全ての仕事を代用し、会社の存続について考えた。会社を引っ張っていくと吹っ切れた瞬間でもあった」と経営者への覚悟を決めたという。工場長だった夫などの協力を受けながら23年に社長に就任。多様な人材が活躍できる職場づくりを心がけ、女性の働き手も増加。従業員も200人を超えるまでに事業が広がった。
「インバウンドや小中学校の授業、企業視察、ツアーなどに向けた案内を徹底した」と、生産だけでなく時代に合った産業観光や企画運営の強化に注力したと事業を振り返り、「伝統をつないで革新を続けたい」と締めくくった。
質疑応答では、事業継承の円滑は方法が問われ、克治会長からは「(父と娘)手法が違うだけで目標は同じ。余計なことは言わずに任せた」と回答。また、新しい事業を展開することによって従業員との軋轢(あつれき)はなかったかとの質問に千春社長は「最初はあった。まず一人の人間として信頼されるよう対話を大切にしてきた」とアドバイスした。






