中央政界特報

■平成29年12月7日(木) 第5336号

「政治特報」

 国会で本格的論戦が交わされている。所信表明演説からのぞける安倍晋三首相の胸の内は。

 2001年、小泉純一郎首相が行った所信表明演説は、官軍に敗れた長岡藩にまつわる「米百表」の故事。
 「食べてしまえば数日でなくなる。国が興るも滅びるもことごとく人にある」と国漢学校を設立した話。
 その後の施政方針演説、所信表明演説にも小泉首相は故事をたっぷりと盛り込んでいる。
 01年にはダーウィンの「進化論」、03年には司馬遼太郎の「人間の素晴らしさは自分のことを悲観的に思わない」を持ち出している。
 通常国会のときに行うのが施政方針演説で、臨時国会、特別国会での演説は所信表明演説。
 安倍首相は今回で10回目の演説に。
 初めて政権の座に就いた06年の所信表明演説では「美しい国」を強調。
 政権の座に復活した13年1月の演説では「強い日本を創るのは、私たち自身です」と。「危機」と言う言葉を14回も。字数にして約4700字。
 今回は短かかった。字数にして3500字。時間にして約15分。
 短かかった所信表明演説に、野党はすかさず批判の声をあげている。
 「空疎で中身がまったくない」は共産党志位和夫委員長。
 立憲民主党枝野幸男代表は「自民党はいつから革命政党になったのか。革命の言葉ばかりがくりかえされた」と揶揄。
 「内容も熱意も薄い」は希望の党の玉木雄一郎代表。
 これまでの演説に比べると、確かに短かった。
 故事も取り入れられていない。
 だが、短かったが、そのことで政権維持への自信と強気がにじんでいた。
 2007年9月12日の所信表明演説。
 安倍首相はことさら声を高くしていた。
 「恐れず、ひるまず。聖域なき改革を」と。
 だが、その2日後に退陣表明をしている。
 「声高にしているときのほうが、かえって自信がないことの表われ」(永田町筋)
 今回の所信表明演説では「人づくり革命」を柱に持ってきている。
 「誰もが生きがいを感じる1億総活躍社会を創り上げます。日本の未来を切り拓いていこうではありませんか」
 来年1月には通常国会が開かれる。このときの施政方針演説では何を語るか。ここが注目のしどころ。安倍首相の前途が見えてくる。

「安倍の後は安倍」

 自民党二階俊博幹事長がすかさず声をあげている。
 「安倍の後は安倍」と。
 衆院選で284議席を獲得。自民党は「1強」を堅持。
 だが、永田町では「勝因は野党の自滅で、安倍首相が支持されたものではない」の見方が。
 この見方は自民党内にも。
 二階幹事長はこういった声に黙っていなかった。
 「いま安倍首相より優れた人がいるか。そういった人がいない。外交でも明らか。安倍首相だからこそ世界の中でやっていける」
 安倍首相の自民党総裁の任期は来年9月で切れる。
 「ポスト安倍」の動きが活発になるのを見越して、ピシャリと先手を打ってきた。
 二階氏が幹事長のポストに就任したのは昨年9月。
 以来、安倍首相を支えてきている。
 これまでにも口を開くたびに「安倍の後は安倍」と。
 自民党総裁の任期は今年春の党大会でこれまでの2期6年から3期9年に延長になっている。
 この道筋をつけたのも二階幹事長。
 これによって、総裁選で再選されれば、安倍首相は2020年の東京オリンピック・パラリンピックを首相として迎えることができる。
 いまここでの二階幹事長による「安倍の後は安倍」の発言が「ポスト安倍」への強い牽制になる。
 「ポスト安倍」で名前があがっているのは石破茂氏、岸田文雄氏、野田聖子氏だが、衆院選挙後には目立った発言も、行動も見られない。

「政治資金パーティー」

 衆院選で惨敗した小池百合子東京都知事。
 自ら代表として陣頭に立った「希望の党」は235人も候補者を擁立したが、50議席しか獲得できずじまい。
 11月10日の両院議員総会で代表の座を辞任。
 「都知事の仕事に専念する」と。
 だが、11月20日には特別顧問に就任している。党の今後の方針にこれまで通りに加わってくることに。
 そんな小池知事だが、都知事としても先行きは厳しい。
 都知事の椅子に座ってから1年半、この間に先送りされた課題が山積だ。
 都議会でも立場は厳しくなる。
 都議会選では「連立」だった公明党が「是々非々の立場」にスタンスを変えてきた。
 今年5月の都議選では50人が立候補し49人が当選という「都民ファーストの会」は圧勝だったが、この勢いが果たして続いて行くか。
 不安は早々に表われている。
 11月20日に開票された東京都葛飾区の区議会選で都民ファーストの会は5人を擁立したが当選したのは1人だけ。
 11月20日、都内のホテルで開かれた都民ファーストの会の政治資金集めのパーティー。
 2万円の会費で1700人が出席している。
 政治資金は集まったが、問題は党の勢い。
 東京都議会の定数は127。
 7月の都議会選で都民ファーストの会は6議席から55議席に躍進、議会第一会派になっているが、単独では過半数に達しない。公明党を引き留められるかだが、微妙になっている。

「営業本部長」

 安倍晋三首相の外遊が本格的に再開される。
 「地球儀俯瞰外交」を強調しており、政権の座に就いて以来地球を飛び回っている。
 「必要とあれば、どこにでも行きますよ」
 その外国訪問を来年、正月早々から。
 通常国会召集前の1月初めにマレーシア、シンガポール、アラブ首長国連邦(UAE)に飛ぶスケジュールが調整されている。
 この3国訪問は日本の「営業本部長」としての仕事が。
 まずマレーシアとシンガポールは新幹線の売り込み。
 両国はすでに高速鉄道を走らせることで建設協定を結んでおり、あとは建設工事の落札の段階。
 総延長は約350キロで、総事業費は約1兆5000億円余。
 落札には日本のほか、中国、韓国も名乗りをあげてくる。
 UAE訪問は海上油田の権益更新で。約6割の海上油田の権益は来年3月で切れてしまう。
 更新しなければ日本の石油エネルギーは大変なことに。
 なにしろUAEの原油は輸入量の約25%を占めている。
 新幹線技術の落札、海上油田の権益更新。
 安倍首相が自ら乗り込んでの交渉だ。
 営業本部長としての3カ国訪問を皮切りとして、来年も安倍首相は政府専用機で各国に出かける年になる。
 中国で開催される日中韓首脳会談で訪中。
 ロシアのプーチン大統領からは5月にサンクトペテルブルクで開かれる国際経済フォーラムに来賓として招待されている。

「民進党と地方組織」

 衆院選で希望の党、立憲民主党、無所属の会、民進党と4つに分裂してしまった民進党。
 その前途は厳しい。
 11月21日、参院本会議で行われた各党代表質問。
 参院での野党第一党として質問にたった大塚耕平代表。
 11月1日に代表に就任したばかり。質問する顔には緊張の色が。
 演壇にも小走りであがっているところにも緊張のほどがあらわれていた。
 質問はアベノミクスについて。
 「格差を拡大させているだけ」と。
 だが、代表としての質問は安倍首相にいなされてしまった。
 政権の座に就いてから5年になろうかという安倍首相と代表21日目の違いがありあり。
 大塚代表は、これからどう民進党を引っ張っていくか。
 「民進党を中心に政権交代を目指す」
 永田町ではこんな見方が。
 「野党主流派に意欲を持っている」
 11月18日、分裂によってすっかり寂しくなった党本部に全国の地方組織の幹部が集まり「全国幹事会」が。
 ここで確認されたのは地方総支部の存続。
 地方議員が流出するのを防ぐための組織存続。
 だが、党内に不安の声があるのも事実。
 民進党の大半は参院議員。いまの力で一致団結といけるか。
 地方議員、党員、サポーターをいままで通りにつなぎとめていけるか。
 分裂した希望の党、立憲民主党との連携も厳しい。
 立憲民主党は民進党との連携には否定的。枝野幸男代表がのってこない。

「前原氏と13人の仲間」

 希望の党に籍を置いている前原誠司氏。
 つい3カ月前とは「天と地ほどの違い」(永田町筋)になっている。
 3カ月前の9月1日、前原氏は枝野幸男氏を下し民進党代表の椅子を奪取。
 「一致団結して進んでいこう」と声を高くしていた。
 「自民党の1強を倒す」と、それは力が入っていた。
 それが3カ月後のいま、まったく永田町で話題にならなくなってしまっている。
 小池百合子東京都知事とのタッグに出たことを「間違ってはいなかった」と言っているが、「民進党を分裂させてしまった」と、いった厳しい目を向けられている。
 衆院選挙は無所属で出馬して当選。その直後に希望の党に入っている。
 「一兵卒として頑張っていきたい」
 自身は無所属でも当選したが、厳しいことになってしまった仲間が全国に13人いる。
 思いもしなかった民進党分裂により、無所属での出馬を余儀なくされ、落選した13人だ。
 13人に声をかけて開いた「慰労会」で前原氏は「民進党に優先的にバックアップしてもらう」と。
 これは民進党大塚代表に「約束をとりつけている」とも。
 落選させてしまったことへの責任を痛感している。
 とはいえ、前原氏のいまは寂しい。
 希望の党は玉木雄一郎代表でスタートを切ったばかり。
 前原氏の出る場所はない。党の役員にもなれず、文字通りの一兵卒。

「手腕の発揮しどころ」

 自民党国会対策委員長の森山裕氏。
 参院当選1回、衆院当選6回。
 政治家としてのスタートは鹿児島市会議員。7期連続当選し、37歳の若さで市議会議長に就任し、5期にわたって議長を。
 国政に出たのは98年の参院選。2004年の補選で衆院に鞍替えして当選。
 05年の衆院選には郵政民営化に反対し、無所属で出馬したが、圧勝している。
 これまでに02年の小泉改造内閣で財務政務官をつとめている。
 自民党にあってベテラン議員。
 座右の銘は「一日一生」だ。
 いま、国会対策委員長として、まさに座右の銘そのものに「一日一生」で対している。
 特別国会での論戦が激しくなっており、国対委員長として野党との対立の最前線で奮闘中だ。
 特別国会が終わっても、来年1月には通常国会が幕を開ける。
 国会運営がスムーズに行くか、それは国対委員長の森山氏の力量にかかっている。
 民進党が分裂し、希望の党、立憲民主党、民進党と対峙する野党が多くなった。
 加えて、立憲民主党の国対委員長には「ソーリ、ソーリ」と 小泉元首相に迫った辻元清美氏が就任しているなど、手ごわい。
 表舞台ではなく裏方を仕切るが、その責務は重い。
 直面しているのは与野党の質問時間。
 森山国対委員長が汗することはこれからが本番になる。